眼下には野球場程度の広さのフィールドが広がっている。
俺たちは出場者専用の観戦席に座りながら、Aブロック一試合目の成り行きを見守ることにした。
「あっ。あっ、あの。はじめまして」
「('ω')」
「初っ端だから緊張しちゃうよぉ~。よろしくね、尽チノ翁さん」
「('ω')ノ」
「え、長いしじじいで良いって? あははっ見た目全然若いのに変なの~笑」
「(#^^#)」
フィールド中央部に備え付けられた楕円形の長机に向かい合っている両選手の風貌は、異様の一言であった。
オレンジがかった金髪の幼女の顔をしながら、腰から下は毒々しい緑の網目模様の大蛇の尾がとぐろを巻いているのが、保身くん。
遠目から見ても際立つ長身(おそらく3メートルはくだらない)の至る所をトイレットペーパーで包み込んでいて、何故か一言も言葉を発さず手持ちのポケパット(※アイパッドのような少し大きめの電子機器)に顔文字のみ映し出し意思表示をしているのが、尽チノ翁(おきな)。
種目はファンタン。銀色のカップで掬(すく)われた碁石のような物の総計を4で割った際の余りが1・2・3・ゼロのいずれかを予想するギャンブルである。
「はぇ~。あいつら絶対人間じゃないよな。バケモンじゃんまんま」
「体躯装飾-アバタースキン-と言ってな。この世界では金さえ積めば自身の肉体の見え方を変えることができるんだ。値が張れば見え方ではなく、身長・体重・性別はおろか、直接能力を行使できるものもある。まぁオンラインゲームだとかではお決まりの定番といえよう」
感嘆するやけいへ2郎がさらりと解説を入れているのを横で聞きながら、いよいよ何でもありやなと俺は思った。
そんな異形らの隣には、銀行役-バンクロール-がそれぞれ控えている。
プレイヤーへと降りかかる火の粉を暴力で封殺する彼らは、しかし今の所本来の役割を全うしていなかった。
「ねぇねぇじじい! 今気付いちゃったんだけど、この碁石なんだか食べれそうだよ! これは駆け引きに使えるんじゃないかなぁ!?」
「( ゚Д゚)」「"(-""-)"」「( *´艸`)」
「おっつ。確かに言わなきゃ有利に進めたかも! でもなーんかズルしたみたいでいやだったんだよねぇ。正々堂々、最後まで戦おうよ!」
「('◇')ゞ」「(*'▽')」「(*´ω`*)」
「うんうん、これ終わったら予想が得意なスポべ言い合いっこしようね! マルチ組もうマルチ」
そしてターンは過ぎてゆき。
Aブロック一試合目の勝敗は、
【保身くん×―〇尽チノ翁】
一滴の血も流れることなく、勝敗が決したのだった。
(めっちゃ普通に終わったな)
試合場に食べ物を持ち込めないため、最後の供給を行いつつ、俺は重い体を起こし、セージへと声をかける。
「ぶふぅー。ぶぅぶー、ぶふふ~ぅ、げっぷ!!!」
「あぁ任せとけ……ってくっせぇな! 近くでげっぷすんのやめるカメ!!」
本気で嫌がれながら、俺たちは決戦のフィールドへと足を運ぶ。
そして、想定したよりも過酷な展開に見舞われることを、この時点では知る由もなかったのだった。